産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が韓国の朴槿恵大統領について書いた記事が名誉毀損に当たると起訴された事件で、産経新聞はソウル中央地裁で事実上の初公判が行われたことを11月28日付朝刊で詳報した。その中で、問題となった記事について、「4月の韓国旅客船沈没事故当日、7時間、朴槿恵大統領の所在がはっきりしなかったことを、大統領秘書室長の国会答弁や韓国紙、朝鮮日報のコラムを引用して詳述した」 などと記載。同日付社説や起訴を速報した10月8日付号外(写真)でも同様に説明した。しかし、実際の記事では、韓国紙にはない「証券街の関係筋」や「政 界筋」の独自情報に言及し、朴大統領が男性と会っていたという噂の内容を明記していた。韓国の起訴状でも、この部分が名誉毀損の核心として取り上げられて いる。産経の報道は、記事には韓国紙と同じ情報しか書かれていなかったかのような誤った印象を与える可能性がある。(注:このレポートは、韓国検察の起訴 の是非論とは無関係であり、起訴を支持する趣旨ではない)
問題となっているのは、産経のニュースサイトに8月3日、加藤前支局長の署名入りで掲載された「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と 会っていた?」という記事。サイト上で8ページあり、現在もそのまま掲載されている。紙面化はされていない。記事は、見出しに「誰と会っていた?」とある ように、韓国で朴大統領が旅客船沈没当日に男性と会っていたという噂があることを紹介したうえで、独自の情報も交えながらウワサされる相手の人物が誰であ るかにも焦点に当てた記述がある。
記事の前半は、旅客船沈没事故発生当日の4月16日、朴大統領が日中、7時間にわたって所在不明となっていた問題が韓国の国会で取り上げられたこと を、大統領秘書室長の国会答弁を引用しながら紹介。後半では、朝鮮日報の「大統領をめぐるウワサ」と題する記者コラムの内容を紹介している。だが、前支局 長の記事では、朝鮮日報コラムが明確にしていない噂の中身に踏み込み、「ウワサとはなにか。証券街の関係筋によれば、それは朴大統領と男性の関係に関するものだ」と記述。朝鮮日報コラムには「ウワサが朴大統領をめぐる男女関係に関することだと、はっきりと書かれてはいない」と認めたうえで、「おそらく、“大統領とオトコ”の話は、韓国社会のすみの方で、あちらこちらで持ちきりとなっていただろう」と、噂の内容が朴大統領の男女関係に関することだと明言している。
さらに、前支局長の記事では、韓国紙のコラムが後日、噂の人物としてチョン・ユンフェ氏の実名を挙げたことを紹介。そのうえで、朴大統領が会っていたと噂されている相手について、独自に「証券筋」または「政界筋」の情報として、チョン・ユンフェ氏もしくはチェ牧師の実名を挙げている。記事では、「ウワサの真偽の追及は現在途上」と真偽不明であることも強調しているが、デマ(虚偽情報)とも断じていない。「証券筋」や「政界筋」の情報を付加することで、噂に信憑性があるかのような印象を与える可能性もある。
産経が公表した起訴状の公訴事実で、韓国の検察は、問題の記事が噂の中身として明らかにした朴大統領の男女関係に関する記述は「虚偽の事実」と主 張。一方、元支局長も11月27日の公判前整理手続き(事実上の初公判)で、「セウォル号沈没事故に関連して韓国国民の間に存在する朴槿恵大統領への認 識、そして現象を、韓国の政治や社会の状況としてありのままに日本の読者に伝えようとしたもの」と意見陳述し、噂の内容が真実だとは積極的に主張しなかっ た。
日本報道検証機構が産経新聞に対し、噂の中身が現時点でも真実と考えているかどうか質問したところ、産経側は「うわさの真実性に関する弊社見解は10月9日付『主張』などをご参照ください」と回答した。
[出典]
http://blogos.com/article/100317/