韓国を黙殺せよ2
日韓関係はどんどん悪くなる
鈴置:数年前まで「文化、人的交流が進んでいるので日韓関係の先行きは明るい」との主張が声高に語られていました。それに対し木村先生は「おいおい、待てよ」と警告を発しました。当時は「相当につむじ曲がり」と世間から見なされたと思います。
2012年8月3日の日経ビジネスオンラインに載った「日韓関係はこれからどんどん悪くなる」ですね。当時としてはかなり刺激的な見出しでした。
木村:あの頃まで「人的交流による関係改善論」が真顔で語られていました。事実とは関係なしに「若者が交流すれば日韓は対立を乗り越えられる」となぜか信じられていたのです。でも今や、そんな期待を語る人は一部の韓国専門家を除いて、ほとんどいなくなりました。日韓が異なる世界に住み始めたという現実を、多くの人が理解したからです。
雑誌に「韓国は放っておけ」とはっきり書く研究者も出てきました。今の日本社会の韓国に対する雰囲気を象徴的に示しています。
別段、韓国がなくても困らない
鈴置:8月24日発表の日経の世論調査によれば「日韓首脳会談は急ぐ必要はない」との意見が47%。「早く開くべきだ」の39%を8%ポイント上回りました(「中韓との首脳会談開催、見方割れる 本社世論調査」参照)。首脳会談を開いても関係が改善するわけでもない、あるいは日韓関係が悪くても別段困らない――との日本人の率直な思いがうかがえる結果です。
日本人の多くは、韓国が「慰安婦」を蒸し返すので、その解決は容易ではないと考えるようになった。
そして仮に「慰安婦」が解決しても、米国と中国ブロックに分かれて住む日韓の潜在的な敵対関係が解消するわけでもない――との認識も定着し始めたのだと思います。
もの分かりが悪くなった日本
木村:日韓は同盟関係にはないものの、それぞれが米国と同盟を結んでいて準・同盟国ともいえる関係にあった。でも、前々回に申し上げたように、韓国はルビコン河を流されて中国の岸にたどり着きました。中国側の国となった韓国は、米韓同盟を対北朝鮮専用に限定しました。少なくとも韓国はそう考えています。米国から「3塁側――敵側に座るな」と叱責されても動じません(「『南シナ海』が揺らす米韓同盟」参照)。
一方、膨張する中国に備え、日本は米国との同盟を強化しました。日韓関係は根っこから変わったのです。日韓はルビコン河の反対側の岸辺――米国側と中国側にそれぞれ住む国になりました。
少し前まで「日―米―韓」の関係は「未完の三角軍事同盟」と呼ばれたものですが、文字通り未完に終わったわけです。
鈴置:日本が「未完の三角軍事同盟」を意識していた頃は、韓国が少々無理難題を吹っ掛けてきても我慢して聞いていた。先ほど木村先生が使った「べったりした関係」とはまさにこれです。
でも「未完」が本当に「未完」で終わることが分かれば、もう韓国の言うことを聞く必要もない。ある外交専門家の表現を借りると、韓国からはこの変化が「もの分かりが悪くなった日本」に見えるというのです。
可愛げのなくなった韓国
これは対句になっていまして、日本から見ると「可愛げがなくなった韓国」――。昔は「兄貴」とおだてながら日本に接してきた。これも「べったりした関係」の半分を構成していましたが、最近は上から目線で命令してくるようになりました。
「べったりした関係」が終われば、もう韓国人にまといつかれないで済むのでしょうか。
木村:韓国人も「新しい日本」には気がつき始めました。ただ最近、逆行する動きも観察されます。日本のリベラル勢力が「慰安婦」でも応援してくれるはずだ、との期待感が再び盛り上がったのです。国会前での安保法制反対デモが韓国で大きく報じられたことが原因です。「極右のアベはどうしようもないが、良心派は健在だ」と韓国の人々は考えたのです。韓国の日本専門家からは「自民党のハト派は何をしているのか」と、期待感を込めて聞かれもします。
日韓議員連盟を辞めよ
鈴置:でも実際は、そのハト派の大物代議士の事務所に支持者から「日韓議員連盟を脱退しろ」と電話が掛かってきて、韓国とは距離を取ったりする時代なのですけれどね。韓国が「慰安婦」問題で日本攻撃の武器に活用してきた河野談話。産経とFNNの世論調査によると、自民党支持者の59.8%が「見直すべきだ」と答えました。
興味深いのは左派や“リベラル”にも「見直し派」が結構いることです。社民党支持者では55.6%と過半数。公明党が47.9%、民主党が41.9%、共産党は35.3%でした。
産経の「広がる『河野談話見直し』賛成、リベラル・左派支持層にも」(2014年7月1日)からの引用です。
「済州島で強制連行」との記事は誤報だったと朝日新聞が取り消す前の調査ですから、いずれの数字も今はもっと高いと思われます。韓国人の期待を裏切ってしまいますが。
国家の財産を私物化
結局「慰安婦」は解決するのでしょうか。
鈴置:しないと思います。「慰安婦」に代表される歴史問題は、韓国にとって貴重な財産です。韓国の政権は不安定な5年の単任制。政権は自分に向かう国民の不満を逸らすために、日本との紛糾を起こす必要があります。もちろん外交上も「慰安婦」など歴史問題は日本攻撃用の戦略兵器です。日本が反論しにくい「歴史」を持ち出してこそ、様々の要求をのませることができるのです。
ただ、スタート時から「慰安婦」を掲げた朴槿恵政権に対しては、韓国内から批判がありました。貴重な対日攻撃カードを乱用すると、日本人も怒り出して効き目がなくなる。朴槿恵政権は国家的な財産を私物化し使い尽くしてしまう、という理屈です。
木村:日本に対し最初から最強硬姿勢をとったので、その後の手がなくなった、というのはその通りですね。
具体案を示さない朴政権
鈴置:朴槿恵政権も、この批判は承知していると思います。これもあって、自分からは具体案を示さないのです。首脳会談の直前に朴槿恵大統領は、毎日新聞との書面インタビューで以下のように答えています。毎日新聞(東京本社版)の10月30日8面に掲載された「一問一答 要旨」から引用します。
・日本政府が、被害者に受け入れ可能で、韓国民が納得できる解決案をできるだけ早く提示することが重要だ。
具体的な解決案を自らは示さず日本に提示させておけば、妥結した後に「やはりあれでは韓国人は納得できなかった」と蒸し返すことができる仕組みです。
木村:韓国政府が自分で解決案を示さないのは、慰安婦の支援団体を説得する自信がないためでもあると思います。
動くゴールポスト
これが「動くゴールポスト」ですね。でも、今後は韓国を徹底的に無視すればいいのでは?
鈴置:もう1つ、日本を攻撃する国ができました。中国です。表「中韓の『慰安婦共闘』」をご欄になると分かりますが、両国は2014年7月の首脳会談で「慰安婦カード」をシェアすることに正式に合意しました。
中韓の「慰安婦共闘」
2014年7月3日 |
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中韓首脳会談で「慰安婦の共同研究」に合意。共同声明の付属文書に盛り込む(聯合ニュース・韓国語版) |
2014年12月15日 |
韓国政府系の東北アジア歴史財団と、中国吉林省の機関、档案局(記録保管所)が慰安婦問題関連資料共同研究のための了解覚書(MOU)を締結(聯合ニュース・日本語版) |
2015年8月15日 |
中国国家公文書局が『「慰安婦」--日本軍の性奴隷』第1回文献テレフィルムを公式サイトで公表(人民網日本語版) |
2015年9月22日 |
サンフランシスコ市議会が「慰安婦碑または像の設置を支持する決議案」を全会一致で採択。運動の中心となったのは中国系団体(産経新聞) |
2015年10月12日 |
中国外交部の華春瑩副報道局長、旧日本軍の慰安婦に関する資料について「ユネスコ世界記憶遺産への登録申請を他の被害国と共同で進める方針」(聯合ニュース・日本語版) |
2015年10月13日 |
韓国外交部の魯光鎰報道官、慰安婦資料のユネスコ世界記憶遺産に中韓が共同で登録申請することに関し「推進中の民間団体が判断すべきだ」。推進中の民間団体とは女性家族部傘下の財団法人、韓国女性人権振興院(聯合ニュース・日本語版) |
2015年10月28日 |
「中韓の慰安婦像2体」をソウル城北区に設置、除幕式。中韓の彫刻家が製作し、両国市民団体が支援(産経新聞) |
もちろん、中国自身も対日歴史攻撃に乗り出しています。ユネスコの記憶遺産に「南京大虐殺文書」を登録したのがその例です(「大陸と付き合ってろくなことはない」参照)。
「妥結」が失敗したら
木村:「慰安婦」の解決は、日韓両国の世論が強硬姿勢をとっている以上、容易ではないと思います。もちろん、今回の日韓首脳会談で示された「早期の妥結」がなされれば話は違ってきますが、逆に失敗に終われば、両国の間には更なる諦めに近い失望が広がっていくでしょう。日本政府は「韓国はまたゴールポストを動かした」と言い、韓国政府は「日本は誠意を見せていない」と言う、お馴染みのやり取りが展開されることになります。そして両国の世論はそれを白けた雰囲気で見守ることになるのだと思います。
だからこそ、今回の首脳会談で合意された「妥結」が失敗に終わった場合にも、備えておかなければならないと思います。
それでもまだ、韓国に付き合わなくてはならないのですか?
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/103100022/?P=5
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/103100022/?P=5